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『もし俺からの連絡が3ヶ月・・・いや、半年途絶えたら俺はもうこの世にいないと思ってくれ』
私達の関係に名前を付けるのならばどの言葉が相応しかったのだろうか。
『友人』というには、過ぎた行為を重ねていたし、『セックスフレンド』ではないだろう。身体だけでなく、私達は互いの心を欲していたからだ。
では、『恋人』なのだろうか?それにしては、我々は互いのことを知らな過ぎた。
私は彼の素性を知らない。職業も、住まいも、過去も、そしてきっと『ロックオン・ストラトス』という名前も偽りのものだったのだろう。
知りたくないわけではない。寧ろ彼のことはどんな些細なことでも知りたかった。
でもきっと彼にそのようなことを聞いたら彼は去ってしまう、それが分かっていたから私は何も聞かなかった。ただ、彼を失うことが怖くて仕方がなかった。
彼の連絡先を知らなかったため、彼との逢瀬はいつも突然だった。
ふらりと私の家に現れて、身体を重ねる。共に外出することはほとんどなく、同じ時を過ごすのはもっぱら私の自宅で、思春期の少年のように互いの身体を、心を求め合うのが常だった。
そんなある日彼は言った、半年連絡が途絶えたら俺は死んだと思ってくれ、と。
どんな童話の姫よりも綺麗に微笑んで、彼は私に静かに告げ眠りについた。
まるで眠り姫のように穏やかな顔で眠る彼の横で私は涙が止まらなかった。
何故突然そんなことを言った?
まるでこれから死地に赴くようではないか。
止まらない涙をそのままに静かにロックオンに口付けた。姫を百年の眠りから目覚めさすかのように。
しかし眠り姫は目覚めなかった。
それから数日後、フォーリンエンジェルズと名づけられたソレスタルビーイング殲滅作戦が決行された。オーバーフラッグス隊からもダリルを始めとする数人がジンクスと名づけられたMSに乗り、作戦に参加している。私はハワードとの誓いを守るために、あくまでもフラッグでガンダムと戦うために愛機をチューンさせた。作戦開始には間に合わなかったものの、ガンダムと対峙することが出来た。
今日はその日から丁度半年経つ。
彼、ロックオンからはあれ以来連絡がない。
私の家を訪ねることもなければ、通信機に連絡が入ることもなかった。
『もし俺からの連絡が3ヶ月・・・いや、半年途絶えたら俺はもうこの世にいないと思ってくれ』
あの日の彼の言葉も、顔も、私は今でも鮮明に覚えている。
あれはやはり別れの言葉だったのだろうな。
きっと彼は、ロックオンは宇宙で散ったのだろう。
なんとなく、彼がガンダムのパイロットではないかと思っていた。
彼が尋ねてくるときは必ずソレスタルビーイングの武力介入がなかったし、逆に彼が出て行った直後はよくソレスタルビーイングの武力介入が行われていた。
夏でも、食事中でも外さない不自然な手袋も気になっていた。
しかし、ずっと否定し続けていた。彼がガンダムのパイロットであるわけがない、と。
それは私のただの願望だった。あんな優しい彼がガンダムに乗っているなど思いたくなかった。
神というのは、運命というのは皮肉なものだ。
きっと私達は出会ってはいけなかった。愛してはいけなかった。
それでも出会ってしまった。愛してしまった。これ以上ない程に。
ボタボタと今まで一度も流れることのなかった涙が、あの日のように堰を切ったかのように零れて止まらない。
彼は何も残していかなかった。あの愛し合った記憶以外、なにも。
「ロックオン、君は永遠の眠り姫になってしまったのか?」
宇宙では王子のキスも届かない。
眠り姫はもう、目覚めない。